
トンネルが現れた。
どこか普通とは違う姿のトンネル。
あーっ。
オープンセサミ!
思わず叫びたくなる。
トンネルは閉じられていた。
まだ、冬季なのね、ここは。



北ノ俣岳登山口。
駐車スペースに、車が二台止まっていた。
D5もそこに停める。
トンネル入り口に、雨宿りするような人が2人いた。スキー板が立てかけられている。
さっき人がスキーを担いでいたというのも見間違いではなさそうだった。


車を停めた登山口から湖を見下ろせる場所まで歩いて50分ほどらしい。雨が降っていなければパセ&ポプと一緒に行きたかったけれど、今回は足元も危なそうなので断念する。

湖への道は閉ざされてしまった。ししたろさんは肩をがっくり落としている(ただ、下のほうを眺めているだけだけど(笑))。
空気が冷たい。雨が降っているせいもあって寒い。山に残る雪を見ているとどんどん寒くなる。ここはまだ冬。

車に乗り込んで、さて次の目的地は?と話していたら、トンネル入り口にいた男性たちが歩き出した。
あれ? 車じゃないんですか?
止まっている車は???という疑問を残しつつ、歩くんですか? どこまで?という疑問がどんどん深まり…。
D5ならきっと乗れるでしょう、というししたろさんの提案で、声をかける。
パセ&ポプは3列目に移動し、これまでの行程を物語るかのようなザックを3列目の後ろに押し込み、男性方には2列目に乗ってもらってスキー板を肩に載せ、しっかり押さえてもらった。
すごいっ、乗れちゃった! デリカって素晴らしい
「携帯でタクシーを呼ぼうと思ったんですけど、通じなかったんですよ」
山に精通してそうな方が、携帯が通じると思っていたことに、「えぇっ?」と顔にも声にも出さず、こっそり驚いた。
3日に扇沢から入って、スキーで下り、沢を越え、クライミングをして、黒部を越えて北ノ俣岳まで来たそうだ。
す、すごいっ。
本で読んだり、ネットで読んだりしたことはあったけれど、実際にそんなことをしている方と、しかも今降りてきたばかりのほっかほかの方と会うのは初めてだった。言葉が出ない。
そんな方が被っているGoLiteの白いキャップが、おそろいだったのよ!(^^)!。
「近くのJRの駅ででも降ろしてください」
地図とナビで駅を探す。
神岡鉄道は廃線になっているし、JRの駅は…とナビで探すと、数時間かかるところが一番近いと言う。
「近くのJRの駅ってどこだかわかりますか?」
「うーん…」
地上に降りてからのことは予定しないのだろうか、と大いなる疑問がむくっと頭をもたげる。
そんな細かいことなんか気にしちゃいられねぇって感じかしら? ん、それって江戸っ子のせりふであって山男のものじゃないわよね。
でも、山から降りてしまえば、どうにかなるさって感じなのだろうか。
とにかく、元神岡鉱山駅のところまで行けばなにかわかりそうだ。
「よく山に行かれてるんですか?」
「なかなかまとまった休みはないので、こんなGWとかじゃないと行けないんですけどね」
「そうですよねぇ。」
今、山から下りてきたばかりの疲れている方たちにあまり声をかけても失礼だと、いろんな話を聞いてみたいという衝動を抑えて黙る。
「ピぃー」
「山、登ってこられたんですか?」
あまり沈黙があっても、と思われたのか声をかけられる。
「わたしたちはカヌーを浮かべられるかどうか、湖を見に来たんですけどね。通行止めでした(苦笑)。」
「ツピー、ピーっ」
ポプラが3列目でピーピー言っている。
シートベルトが絡んでいる?と不安になって、お願いして見てもらう。
「大丈夫です。くつろいでますよ」
「ピーっ、ピーっ」
「ポプラ~、少し我慢ね」
ポプラは3列目から顔だけ出してこちらをじっと見つめてなにかを訴えていた。
パセリも何か言っているのかと耳を凝らしたけれど、静かだった。パセリこそがピローに埋まってくつろいでいるのだろう。
相手の敷地内にずかずか入るようなことはしたくないと常々思っているので、当たり障りのない程度に聞く。
「どちらからいらしてるんですか?」
「東京と大阪からです。明日は会社なので今日中に帰れればいいんですけど、明日は使い物になりませんよ(笑)」
「ヴーっ。ピーピーっ。」
「ぽーちゃ~ん。もうちょっとだからねぇ~」
「ピーっ!ピーっ!」
まさか、トイレ???
「ポプぅ~、我慢してね、もうすぐだからね。」
以前、撮影のときに車で待たせていて、「ピーピー」訴えていたのに気付いてあげられなかったことがある。失敗させてしまったら可哀想だ。
もうすぐ神岡鉱山駅付近に到着する。
駐車場に滑り込んで、取り急ぎポプラを降ろした。
喜んでうろうろするが、トイレではなかった。ただ心細かっただけなのか…。
男性方はタクシーが呼べたそうで、そこで別れることになった。
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